食品製造業界において、外国人労働者は貴重な戦力に
少子高齢化による労働力不足の問題は、製造業においても進行しています。
製造業において労働力不足を解決する方法は工場の自動化を進めることですが、食品製造業においては人手に頼る部分が多く、自動化がなかなか進んでいないのが現状です。
また、日本ならではの特徴として、製品の品質や衛生の基準が世界的にみても高い点があげられます。そこで経営者が気になるのは、外国人労働者を雇用する場合、日本ならではの厳しい業務水準に外国人が対応できるかどうかという点ではないでしょうか。
しかしながら、視点を変えれば外国人労働者は貴重な戦力になり得ます。この記事では、食品製造業で外国人を採用する際に経営者が知っておきたい基礎知識について説明していきます。
食品製造業界において外国人採用が必要な理由は?
食品製造業界においては、労働力不足が課題となっています。
厚生労働省がまとめた「一般職業紹介状況」によると、2017年度における飲食料品製造業の有効求人倍率は2.78倍であり、全業種平均の1.38倍と比べると大幅に上回る結果となりました。
そのため、食品製造分野においては労働力の確保が必須の状況といえます。しかしながら、国内では少子高齢化による労働力不足が進んでおり、思うように採用が進まない現状があります。
そこで注目されるのは外国人の採用です。飲食料品製造業において外国人を採用する必要性としては以下があげられます。
・機械化が困難
・海外移転が困難
・留学生の不法就労を防ぐ
それぞれの内容についてくわしく説明します。
機械化が困難
食品製造業においてネックとなるのは、機械化が困難である点です。
対応できる範囲で機械化が進んでいる状況ではありますが、不良品のチェックや食品の盛り付けなど、手作業に頼らなければならない業務が多々あります。
機械化が困難な状況においては人手に頼らざるを得ませんが、国内だけで労働力を確保できない場合は、外国人労働者も採用する必要があります。
海外移転が困難
食品製造業において海外移転が困難である理由は、食品の鮮度の問題と直結するためです。
缶詰など日持ちする食品であれば工場を海外に移転しても差し支えはありませんが、食品を扱う以上、基本的には鮮度の良さが売上を左右します。それを踏まえると、輸送時間を抑えられ、鮮度を維持できる国内での工場生産が原則といえます。
留学生の不法就労を防ぐ
そのほかの理由としては、留学生の不法就労を防ぐことがあげられます。
留学生は「資格外活動許可」を受けられれば、1週間あたり28時間以内の労働が可能となりますが、場合によっては28時間以上働いてしまう事例も見受けられます。
規定された時間を超えて労働すると「不法就労」となってしまうため、労働時間が限られている留学生を雇用するよりも、特定技能の在留資格を持つ外国人ならフルタイムで働けるため、労使双方にとって有益といえます。
食品製造業で外国人を採用するメリットは?
食品製造業で外国人を採用するメリットとしては、以下のものがあります。
・若年層を多く確保できる
・海外進出の足がかりにできる
・将来的には、原料の買い付けを任せられる
それぞれの内容について説明します。
若年層を多く確保できる
他の業種と共通する内容ではありますが、若年層を多く確保できる点はメリットといえます。
日本では少子高齢化によって若年層が減少していることに加え、製造業においては若年層が確保しにくい状態となっています。
企業内に経験者が多いことも大切ではありますが、人材の入れ替わりが発生しなければ、組織の硬直化により企業の発展が望めない状態にもなりかねません。
その点、若年層が増えれば、新しい考え方が広がって企業の雰囲気が変わり、企業内の活性化が期待できます。
海外進出の足がかりにできる
また、外国人労働者を雇用することで、海外進出の足がかりを作りやすくなります。
食品工場は、鮮度の良い状態で消費者に届けるためにも国内に工場を構えることが基本となりますが、缶詰などのように日持ちする製品に関しては工場を海外に設置する方法も効果的です。
海外に進出する場合、日本人の担当者のみで行うよりも、現地出身の外国人とともに行えば成果が期待しやすくなります。
海外進出を検討しているのであれば、先手を打って外国人労働者を雇用しておくことが有効といえます。
将来的には原料の買い付けを任せられる
長期的なスパンで考えた場合、外国人労働者に原料の買い付けを任せることも可能となります。
海外で原料の買い付けを行う場合、日本人が英語、または現地の言葉を覚えてから現地に赴くよりも、現地出身の外国人に任せれば、言語の教育や現地の習慣を学ぶ必要がないため、スムーズに行えます。
将来的に原料の買い付けを任せるという観点からみても、早い段階で外国人を採用しておくことは戦略的といえます。
食品製造業界で外国人を採用する場合、必要な在留資格は?
食品製造業界で採用できる外国人の在留資格としては、以下があります。
・ 高度専門職1号(ロ)
・ 技術・人文知識・国際業務
・ 特定活動(46号)
・ 特定技能
なお、技能実習の在留資格でも食品製造業界で働くことは可能ではありますが、あくまでも「実習」が前提です。技能実習の在留資格は就労ビザではないことを認識しておきましょう。
在留資格別 就業可能な業務内容
次に、在留資格別に就業可能な業務内容についてみていきます。
高度専門職1号(ロ)
食品製造業界において、高度専門職の在留資格で就業できる業務は「品質管理」「本部スタッフ」があります。
高度専門職とは、高度な技術や知識を有していると認定された外国人に交付される在留資格です。高度専門職は1号と2号に分かれており、1号は活動内容によって「イ」「ロ」「ハ」の3種類に分かれます。
「イ」は研究、指導、教育など、「ロ」は専門的な知識、または技術を要する業務に当たる場合、「ハ」は経営、管理などが当てはまります。
食品製造業界で品質管理や本部スタッフの業務を行う場合は、専門的な知識が求められるため、高度専門職1号(ロ)となります。
技術・人文・国際業務
食品製造業界において、技術・人文・国際業務の在留資格で就業できる業務は、品質管理、本部スタッフのほか、翻訳通訳業務も可能です。
技術・人文・国際業務とは、わかりやすく説明すると、技術は技術者としての業務、人文とは企画・営業・経理などホワイトカラー全般の業務、国際業務とは翻訳に関連する業務のことを指します。
なお、翻訳の業務は「技術・人文・国際業務」の在留資格を持っている場合に可能であり、高度専門職の在留資格では翻訳通訳業務をメインに行うことはできません。
特定活動(46号)
食品製造業界において、特定活動(46号)の在留資格で就業できる業務は、品質管理、本部スタッフ、翻訳通訳業務のほか、工場のライン作業員も行えます。
特定活動46号は、日本の大学・大学院を卒業した外国人に交付される資格で、ホワイトカラー業務や専門的な業務に加え、現場での業務も行うことが可能です。
日本の大学を卒業した外国人には、主に「技術・人文・国際業務」の在留資格が交付されていますが、職種がホワイトカラー業務、あるいは専門的な業務に限定されるため、現場での業務を行えない点がネックでした。
その問題点を解決するために設けられた在留資格が「特定活動(46号)」です。これにより、大学を卒業した留学生は幅広い職種に就くことが可能となりました。
特定技能
食品製造業界において、特定技能の在留資格で就業できる業務は工場のライン作業員です。
特定技能とは、労働力不足の解消を目的として2019年に新設された在留資格で、建設、農業、飲食料品製造業など14の業種においての業務が認められています。
特定技能には1号と2号の2種類がありますが、飲食料品製造業は特定技能1号のみとなります。
外国籍の人材を採用するまでの流れとポイント
外国籍人材を採用する流れについて簡単に説明すると以下の通りとなります。
・募集
・在留資格の確認
・面接
・内定後、雇用契約書作成
・就労ビザ申請
・就労ビザ取得後、雇用を開始
外国人を採用する場合に抑えておきたいポイントは「在留資格」と「日本語能力」をチェックしておくことです。
外国人が日本の企業で働く場合、業務に応じた在留資格を保有している必要があります。単に在留資格を持っていたとしても、業務に応じた在留資格を持っていなければ、その業務を行うことができないためです。
また、事前に日本語能力を確認しておくことも重要なポイントとなります。日本の企業で業務を行ううえでは、コミュニケーションが可能な程度の日本語能力が求められるためです。
ただし、外国人労働者の中には、日本語能力はさほど高くないものの、業務に関する高いスキルを持っている場合があります。片言程度の日本語が話せるなら、日本語を学ぶ機会を与えることも一つの方法といえます。
食品製造業界で特定技能1号の認可を受ける基準は?
食品製造業において、特に人手が不足しているのは工場で働くスタッフではないでしょうか。
工場で働くために必要な在留資格としては「特定活動(46号)」と「特定技能」があります。特定活動(46号)の在留資格は日本の大学、または大学院を卒業した外国人に限られるため、この条件に当てはまる外国人は限られます。
一方、特定技能の場合は、飲料食品製造業分野の2号技能実習を修了していれば、特定技能1号の在留資格が認められます。
もし、2号技能実習を修了していない場合は、飲食料品製造業技能測定試験に合格すること、そして、日本語能力試験(N4)または国際交流基金日本語基礎テストに合格することが求められます。
食品製造業で外国人労働者の受け入れを認められる条件は?
食品製造業が外国人労働者の受け入れを認められるためには、以下の2つの条件を満たしている必要があります。
・食品産業特定技能協議会の構成員になること
・外国人を雇用するための支援体制を構築すること
これらの条件についてくわしくみていきます。
食品産業特定技能協議会の構成員になること
飲食料品製造業において外国人を受け入れる場合、食品産業特定技能協議会の構成員になる必要があります。
協議会で行われる内容としては、業界内における制度・情報の周知、法令を遵守するための啓発活動、人手不足が生じた場合に対策を講じることです。構成員同士が連携し合うことによって、スムーズな業務の運営が実現します。
協議会に加入するタイミングは、特定技能外国人を初めて受け入れてから4か月以内となります。なお、4か月以内に協議会に加入しなかった場合は、特定技能外国人の受け入れが認められません。
協議会の構成員になる手続きは早めに行っておきましょう。
外国人を雇用するための支援体制を構築すること
職場に特定技能外国人を受け入れる場合は、雇用するための支援体制を構築する必要があります。
具体的な内容には、外国人労働者が安定して働くことができるよう、在留期間中の支援計画を作成することです。
しかしながら、外国人を受け入れる企業としては、日頃の業務が忙しいうえに、外国人の支援に関する専門的な知識が必要となるため、自社内で支援体制を構築するのは難しいのが現状といえます。
そのため、一般的には支援体制に関する業務を「登録支援機関」に依頼し、支援計画書の作成や実施を代行してもらう形となります。
外国籍人材採用の成功のカギは「なぜ採用したいと思ったか?」
外国籍の人材の採用を成功させるポイントは、「なぜ採用したいと思ったか」という点を明確にすることです。
採用したい理由で多いものとして「人手不足の解消」がありますが、それも明確な採用理由となります。また、海外進出の足がかりとして採用したり、原料買い付けの要員として採用したりする場合もありますが、企業を成長させていくうえでは、戦略的な採用も必要でしょう。
もし「外国人をなぜ採用したいと思ったか」という気持ちが薄い場合、外国人を採用できたとしてもコミュニケーション不足になりがちです。それによって、労働者側の気持ちが離れやすくなり、最終的には離職の原因となりかねません。
「外国人を採用したい」という気持ちが強ければ、外国人労働者を採用した後にコミュニケーションをこまめにとりやすくなるため、風通しの良い関係になりやすく、定着が見込めます。
そのため、外国人をなぜ採用したいと思ったかという点は明確にしておく必要があるのです。
まとめ
労働力不足が進んでいる現状においては、食品製造業界においても外国人労働者の雇用は待ったなしの状態といえます。
しかしながら、初めて外国人を受け入れる企業の立場としては、外国人労働者が定着するかどうか、トラブルが発生しないかどうかなど不安に感じることもあるのではないでしょうか。
初めて外国人を採用するなら、2~3人程度の少人数から開始して、外国人と一緒に働くことについて徐々に慣れていくことも大切でしょう。慣れてきたら徐々に外国人を増やしていけば、社内において外国人をスムーズに受け入れられます。
もし、外国人の受け入れについて不安をぬぐい切れない場合は、専門機関に相談しながら雇用を進めていくことも一つの方法です。
少子高齢化と労働力不足がさらに進行していくと、外国人労働者を採用する機会が増えていくことでしょう。労働力人口が減少している現状においては、早い段階から外国人労働者の受け入れを進めていくことが必要です。
(画像は写真ACより)